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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
ともへりくだった。――「死力をつくして開拓つかまつるべく……御用途多端のことにござ候へば、何分にも自費をもつて開拓仕り、千辛万苦、死力をつくし……前罪の万分の一にても相償ひ申したく」――とまで衷心を披瀝した。それらの文言は虚空にうかび目の先にちらついている。
手や頸にすり疵をこしらえ、草いきれの中を汗みずくになって阿賀妻は歩いている。新政府の基礎は日毎に固まり、北海道と改めて呼ばれる蝦夷地にも開拓の歩は進められていた。それ故彼にとって、屈辱なく死を托するに足る土地を定めることは、一刻もあらそう心せわしさでもあった。
視界がふいにあかるくなって、腕をのばして掻きわけた草の彼方に、ひろい原野がひらけていた。段丘のはてまで歩きつめてしまったのであろう。吹き上げて来る野の風を胸に入れて彼は深い呼吸をはいた。
「おお、海が見える」
右手の方、地平のはてに浮きあがった青い一線は日本の海――日本海であった。
「海が見えるぞ、おぬしら――」と彼はふりかえった。
戸田老人の足はおくれていた。踏みわけた草の中をばさばさと近づいて来る彼のうしろで、玉目三郎はとびあがって叫んだ。