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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

三

「見えますか、ご家老――トウベツが?」

阿賀妻はそっと顔をそむけた。目的は反対の東の方にある。

「なるほど、これがオヤフロの野か」と大野順平はかすかにほほ笑んでいた。

昨日の案内人が、そうだ――と頷いた。

「折柄時分どきでござろう――」と、戸田老人は陽を仰いだ、「このあたりで昼食をしたため、あとは即ち一気呵成とまいろうか」

笠をはずして、禿げあがった額の汗をふいていた。

草を敷いて彼らの一行は腰をおろした。四五匹の虻が頭上を舞っていた。

三

「しからば先導仕ろう」と大野順平は、逞しい体躯を揺ぶって立ちあがった。

オヤフロの野にはいっての数時間は、ヤチダモ、アカダモの密林つづき、次第にカシワ、ナラなどの節くれ立った木が目につき、白い肌の樹が点在する粗林となった。やがてギシギシ、ヨモギなどの野を越えて、ススキ、ヨシの湿地にはいった。まだか、まだか――と、そうせき立てられた案内人が見つけたのは、風に吹き折れて枯れたヤチダモの立木であった。荷を投げだして攀じのぼり、彼は木の股に足をかけてしばらく東の方を睨んでいた。

「見えるか――」と下から催促した。

「見える」と、ようやく彼は答えた。