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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
けれどもこうなっては、太ったその仕事師はびくつかなかった。返事をそらされても臆せずにやにや笑った。そして、彼はまたふと阿賀妻の存在に気づくのだ。彼のひろい顔は、あぐらをかいている大きな鼻のまわりに不快げな小皺を集めていた。話の調子に乗った彼は、そのときまで、ことりとも音立てぬそのものを度忘れしていた。無視していた。だが、その間じゅう横からじろじろ眺められていたような気がした。ま近かに見る昔のさむらいは、それが政府の前には彼らと同じく、今はなんらの権力も無いと知っていながら、恐れるのは、もしかしたら抜くかも知れぬ帯刀だけであった。一日々々と、ひとりでに軽んじる気持になっていた。殊にこういう多勢で向い合ったときには、もはや歯牙にかけるほどのものでも無い。ふふん――と彼は鼻で笑った。堀大主典が何かそれに遠慮していると見て取った彼は、そのためにも更に傲慢なものごしを取らねばならぬ衝動に駆られるらしかった。じろじろと四辺を見まわして、はしゃぐように彼は云った。
「何ですぜ、だんな、――何でもこの企ては、判官どの直き直きのお指図だそうでしたね、もっぱらそういう噂がたかかったが、なあ?」