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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
彼は相手を肩にひきずるようにして低い河原におりて行った。宵のうす暗さとは云え、こういう荷物を背負って街を歩くことはさすがに避けたい気持になっていた。こちらの岸べは、水に濡れた砂がかたまって足の運びも早かった。川風が肌をなでつけて、夜のおちつきとともに昂奮は消えるのだ。棟梁も立って、そして、四五間はなれて歩いていた。流木の破片や崩れた草の根や、ときには白い貝殻がそれと見わけられた。
ここまで来ては、たとい相手に正気がかえったとしても云うことは無かった。妥協の余地はないと彼から暴力を買って出た気持のうちには、松岡長吉は最後の腹をきめていたのである。あの場合の腹立たしさが、そのときこういう考えの結果として腕をふるったものかどうか――そのせん索は今はもうどうでもよかった。彼は自分のやったことに責任を持つだけであった。そもそもあの税庫建築にあたって、土民どもの示した迫害や侮蔑は、すて置くことの出来ないものであった。こういう方法がよい悪いは別として、とにかく曲りなりにもその面目をささえた。そう思って彼の気持はいくらか軽くなった。そして何故か、この上の恥を取らぬためと思った、――彼は脇差の下げ緒をもって強くそのつばもとをゆわえつけた。