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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
川下に向ってだんだん街のあるあたりを遠ざかっていた。足裏にじっとりと水気が草履をとおして、河口のあちらからは潮の匂いがただよって来る。海も間近かになっていた。片側は丈なす縞萱の原ッぱになっていた。刃もののようなするどい葉が川に向って伸び、どこまでもつづき、人家を出はずれるのだ。歩いて行く彼らの肩や手にふれ白い葉裏が夜目にも見えた。割れた月が川の上のあお黒い空に浮きあがってあらわれ、まだ光らず、黄色ッぽい色に波にくだけていた。
「おやじ、帰れ」と松岡は立ちどまった。
そこから先は縞萱つづきの砂っ原であった。やがて板のような砂洲を越えると海であった。あたりは風雨に近すぎて人の住む家も無く、漁師の小屋さえ見あたらなかった。
「きさまの住居から、これでは却って行き過ぎになるだろうが――少しは酔もさめたであろう」
「さめた、さめたが、――」とながい脚をずんと支え棒にして立ちはだかり、棟梁は鼻をこすりあげて云った、「しかし、だ、そうじゃア無えか、半ぱもの――このまま帰れるかどうか、おい」
肩をせりあげて、蹴合うおん鶏のようにじりじりと近よって来た。
「だまって帰れ」