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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

彼らはそのあたりの崖を平にして第二の草盧を営んだ。

高倉祐吉は、草の香のむんむんするその出来たての小屋のなかで、測量隊の帰りを待っていた。ほとんど一晩中、まんじりともしないであらゆる物音に耳をすましていた。しかし遂に彼らは帰って来なかった。しんしんと冷えて来た夜半の巒気のなかで、勢いのおとろえた焚火を見つめながら、彼は何ということなしに、泣きたくなった。かなしいことが次々に思いだされた。彼の悲劇はあたらしかった。自害した父親の心境が判るような気がした。そこまで思い到ると彼にはもう怖しいものは何も無かった。血に染ってのたうっていた父親の呻きが哀しみになって切なく胸もとにこみあげるのだ。だらだらとなま温く涙が流れて来た。

彼のうるんだ視野に何か動くものがはいって来た。焚火を掻き立てて、その焔に照しだされた峡谷の闇をぼんやり眺めていた。待っている彼らでは無かった。彼らの代りに音も無く、その火の前を黄ばんだものが横ぎって行った。房々とした尻尾がひどくゆたかな穂のようにぴんと立って、それがついと闇に消えた。野の狐がまよいだしていたのであろう。

彼は銃を取ろうとした。