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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

そして、日没の太陽は、朱を塗りつけるように、どろんと輝いた。遠い山々の峰が赤く、万頃の波頭が赤く、船は半面を燃えるように赤らめ、人々の顔は羞恥の限りのようにまッ赤に色どられた。

海鳥の五六羽が弧を描いてとんで行った。

鐘が鳴った。軽快ないでたちをした運用方士官が水夫を連れて甲板を急ぐのであった。行きちがった彼らが何か大声で合図をしていた。

庚午丸は夜の支度をはじめるのだ。

太陽はきしむように落ちていた。じッと見ていると停止しているような、そのくせ瞬きする間にずしんと落ちて小さくなる落日――非常にはやくて、しかも極度にゆったりした速度に合わせて、彼らのほかには誰も見てもいない海原のうえで、蒸気船の旗章が徐ろに引きおろされていた。

何故ともなく邦夷たちは佇立してそれを見つめていた。海上の空気はにわかに冷厳なものを運んで来た。唇を咥えて、――そのとき、旗章も太陽もすっかり墜ち、ずいと湧きあがって来た黒い夜を見ていた。

船室から出て来た従者が夕食の出たことを知らせた。彼は附け加えて云った。

「聞くところによると、多分今日の夜半には荻の浜に入港するだろうとのことです、阿賀妻さん?」