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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

云わなくてもいいのかも知れない。ふわりと温かなものに包まれた満足した感じであった。

「堅固に暮していたか」

「はい」

「阿賀妻らはどう致した?」

「いずれ明日と申してそれぞれ引き取られました、阿賀妻どのは舅どのが待っておられるにちがいないと、かよう申されまして、今し方――」

「待ってもいまいが」

「はい?」と夫人はかすかな怪しみを見せて邦夷を見あげた。

おはぐろの青味をおびた深い黒さが、したたるように濡れていた。ぱっちり開いた瞳に涙が流れていた。

「おぬしは待っておったろうか」

「待たいで――」

「そうか――そうだろう」

「会いとうございました」

ついと辷って、彼女は夫の膝に顔を伏せた。男はふるえているその肩をおさえ、襟足を見おろした。噎せるような匂いに包まれた。髪油のにおいがむんむんと酔わすように嗅っているのだ。

女は身もだえするようにして云った。

「もう――二度とお側を離れませぬ」

「されば」

「ここにこうしておってやる、と、――もし、この耳に聞かせて下さりませ」

四

思わず洩れる女の口うらに驚いた、――せかせかと談じこんで行った神山外記の言葉と通ずる何ものかがそこに閃めいている。