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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

揃って頭を低げた彼らであった。それから、そのうちの一人が舌をもつれかしながら云った。

「おそれ、ながら、お家のために」

「く、くどくは、申しませぬ」と別の声がふるえて附け足した。

おもむろに顔をあげて、三番目のものが云った。

「お召し下さい、それとも――」

「ばッ!」と、上から、阿賀妻の声が爆発した、「ばかものどもめッ!」

片膝を立て、刀のつかに手をかけ、そして、藩士らが目をみはったのと、すべてが同時であった。阿賀妻の袴のまちが高くひらめいた。足先で蹴あげたのだ。短刀をのせた三方は、つぶてとなってすッ飛んだ。ま横によぎった。鴨居に近い障子の桟をたたきつぶした。

間髪を入れず、阿賀妻はどしんと一歩前に出た。怒り声で浴せかけた。

「斬れ、斬らんか、そこつものめ、――」

け圧されて、立てた膝をばたりとおとした。それが彼らの崩れであった。次の膝をひくためには、刀にかけた手を外さねばならぬのであった。

そうなってしまえば、もはや超えがたい身分の差が、藩士らの精神を硬直させている。十畳の室のまン中に突っ立った阿賀妻は、やはり彼らの指揮者であった。痩せぎすの彼の身体が室一ぱいに立ちはだかったようであった。