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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

コレ豈ニ遠大ノ業ニアラズヤ――」

これは云うまでもなく政府の方針になっていた。そしてまた阿賀妻らの衷情と寸分の差違は無かった。もし人間の誠実が言葉のみでは信用出来ないと云うならば、この席には、現地の阿賀妻らにもっとも近く接近し、ありのままの姿を見ている堀盛がいる。いることを予期し、覘いをつけて上京して来たとも云うことが出来る。

阿賀妻はにやりと笑った。

「ご馳走だな」と彼は黒ゴマをまぶした握り飯をつまんだ。

だんだん自分を許して、われながら、つくすだけの手はつくし尽されたと満足するのだ。自分に寛大になっていた。彼のかすかな疑懼は、あの日と同じ気持でいる旧主であった。一旦の約定を固く守って、みずからに死をかけると同時に相手方にも死を求めている気持だ。

「話の都合によっては――」と、彼は出がらしの番茶を、ごくごく咽喉をならして飲みこんで、「郷里に、早飛脚に立ってもらわにゃならぬかも知れませんな」

甚助はそれを聞くと、なぜかぶるぶるッと顫えた。

「いかにも冷たい、――」

阿賀妻は眼をほそめた。従僕の唇は紫色にかわっていた。それをにこにこ眺めて、彼は云うのだ。