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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
陣羽織を着ているもとのご家老控の柳川源達が、首をふり動かして邦夷に云った。
「見受けたところ、だいぶ時刻も移りますゆえ、――」
帳面方が爪立ちしながら姓名を呼びあげた。
城中の席次によって、柳川源達を中心にした五六人が、おのずから世話役をつくっていた。
そのおのおのはまた、近親を伝手に小さく纏った班々を統率した。笠の緒をひきしめ袴の腿立ちをたかく取った。そのもの達は緊張していた。
「揃いましてございます」
邦夷はこの報告にうなずいた。そして、彼ら家臣一統の前で、彼は社殿に面して立った。鎮守の神にお別れの言葉をのべねばならぬ。神官はこの主君の考えに反対していた。それを気にして遂に姿を見せなかった。それもよろしい、神は彼らの心を知ってくれるであろう。打ちならすかしわ手の音が、檜の森にぱんぱんひびきわたった。
しみるような男の強いこえがそれにつづいた。邦夷が思いを陳べているのである。
「身どもら、不運にして、先祖の地を衛るあたわず、すなわち、棄てて蝦夷地にはしる、されば、生命ある限り二度と再び立ち戻るを得ず、つつしんで永劫の袂別をもうす」
かしわ手の音がつめたく背すじを走った。