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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
「上等の船室をあちらに用意してございますので、どうぞ」
手を振って供の水夫に指図した。彼らは潮やけした逞しい腕をつきだした。せつかく整理した荷物を運びだそうとするのである。
「いや」と邦夷はそれを遮った。
「船長の命令でございますので」
「ご好意は忝けない、ありがたくお受け致す、さりながら――」
そう云って、彼は周囲を見まわした。
阿賀妻が左右のものに次々と、改めて挨拶しながら近づいて来た。
士官は佇立していた。
「ここは、見らるる如く、われらの家中の水入らず」と邦夷は云って、「のう、そうじゃろう?」
と阿賀妻に呼びかけた。
「仰せの通り」
彼はその場に膝ずくのだ。
「船長どのに、左様お伝え願おうか」邦夷はそれを士官に云った、「身どもも今は開拓使の移民の一人――別段のご配慮はかえって痛み入るばかりじゃ」
「でもございましょうが」
「おぬし――」と邦夷は幾らかいらいらした声で阿賀妻を呼んだ、「行って断って来て貰わにゃなるまい」
士官はおどろいて二三歩うしろに退った。
「それほどまでに仰せられるならば、ともあれ一応船長まで」
彼は顔を赤らめて踵をかえすのであった。
邦夷の顔は明るくなった。