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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

悪意のない自分らへの嘲笑が口をついて出た。

阿賀妻は笑いながらそれを軽くたしなめた。

「雑言はおつつしみなされ」

「ご容謝ご容謝」

そして、はればれしく笑い立てた。米の煮える香気が軒並みにあふれて来だしたのだ。会計士官らの手配にひどく満足した。夷人の服装をつけたそれらの男に今は並々ならぬ好意を覚えた。はじめから自分らの味方であったような錯覚を持った。飢えに苦しむところまで堕ちて来ると、人々の心は単純に一つの色に包まれる。それを満してくれるものはみんな善良な心を持っているかと懐しげに見あげる。

そういう気持を現わすのにも彼らは武張った言葉しか知らないのだ。従って、恐る恐る顔を出した土民には通じるわけが無かった。

半信半疑ながら彼らは山から降りて来たのである。海軍――蒸気船の乗組員はすべて海軍であった――士官の説得がはっきり飲みこめたわけでもなかった。見つかって了えばそのものの云いなりになるより他に彼らの生き存らえる途はない。そういう――代々下積みにいるものの観念が自らを納得させたのだ。爺と婆が生きていたのはお情けであろうと思った。そこで彼らは、あちらから要求されるもののあることを直ちに覚悟した。