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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
そうは思いながら、その永い歳月は、彼女には明日のように近かった。家のうちに男ありと考えるだけで熱くなるような心強さであった。
しかもこれは家中の慶事ではないか。玉目三郎がどうあろうと、あるいはトキ女の実父どもがどういう心を持っていようと、そんな恩怨は、疾くの昔に消えている。共に行動を起したあとは、家中の心が即ち個人の心であった。そうして、あれからのさまざまな辛苦がようやくむくいられ初め、男児誕生のよろこびも廻って来ようとしている。彼らの新たな境涯に、新たな生命が生れて来るのだ。これは男子でなくてはいけない。相田清祐はその日のために伝令するものを残しておいた。明けて十九歳の高倉祐吉がそれを仰せ付かった。藩主から定まった禄米をあたえられていたときには、数えどし十九と云えばりっぱな家中の若ざむらいであった。殊に彼のような場合は、跡目相続の披露もしたことであろうから、おしも圧されもせぬ一家のあるじになっていた筈だ。自分もその気になり、他人もそうしたものとして立てたのであった。すると、若いながらも身分にふさわしい貫禄が出て来たものである。
しかし今の場合は異っていた。