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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
「身どもには渡せぬと云うか」
「どうぞ――そう云わねえで、相田さまの許までお連れになさって下さいませ」
「よし」と、高倉は土間に跳ねおりた、「連れて行こう」
彼の凝ッとしておれない気持がふいに沸りあげて来た。これからトウベツに行こうと心が決った。頑固なこの行商人を雪のなかにひっぱりこんで泣きべそを掻かしてやりたい、そう思う残忍な気持もあった。
「遠いぞオ――」と、彼は足ならしをするように交互に土間をふみしめた、「家中の男という男は、一人残らずトウベツに行っておる、間に合せの小屋がけをして、伐木に従事しておる、相田どのはそれを指図なされておる、――蹤いてまいるか?」
「そいつは、願ったり叶ったり――」と商人はいきなり眼をほそめて勢づくのだ、「ご一しょに、さっそく、お供しやしょう、――つまり、そういうところを目当ての商売でがんすよ、結構ですな」
「雪は深いぞ」
「そいつア馴れてます」
「おい、金作、その、あれを――」と高倉は弟を動かした。棚にぶら下っていたカンジキであった。それを受け取って、一足を商人の足許に投げだした。彼はまた弟に命じた。商人はちょっと身じろぎした。