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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
ざくりと指に触れた紙包みがあった。取りだして匂いを嗅ぐと生ぐさかった。乾した貝柱である。鋸屋の好物か、あるいはこういう行きづまりの場合のため、一時の飢え凌ぎの用意だったのだろうか。
高倉は、何ということなしにその貝柱を死者の口にあてがった。もはや噛みついては来なかった。
それでも睡魔の襲げきは止まなかった。すッと身体の支柱が取られて、いけない、いけないと口の中で喚いて横になっているのであった。穴の天井は、いつの間にか氷柱の林になっていた。ぱしゃりと雪水にうたれて彼は目をさます。立ちあがる。簑が破れた。凍りついていた。こんどはびっくりするほどあたりが静かになっていた。風の勢いはずっと落ちていた。
夜明けの近いことが感ぜられる。夜が明けるということはどういうことなのであろう。薄明は、どこか永劫の彼方から来て、暗い夜を押しのける。人間の身体のなかまで押しよせる。あたりが、夜の間彼の心にあった暗い思いを、夜明けとともに吹き消している。
高倉は犬の遠吠えのような声を聞いた。犬――と、それは直ちに人家を聯想させる。彼は穴から匐いだして薄明のなかに立った。耳を澄した。