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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

阿賀妻の杞憂や大野順平らの復命が裏書きされた。そのとき彼は、有力な家臣以上の仕事は出来ないという自覚を持たされたのである。口をへの字に結んだ邦夷は、遠いところを見つめているような湿んだ瞳を据えて、この原始林を見まわしていた。しかし彼は函館に足を停めて最後の工作をやってのけたのである。何とかして海岸の地を得たいと思うしゃにむにの歎願であった。季節は夏に向っていた。郷里では家中のものが首を長くしていた。挙げて移住する議が決定してから、すでに家をゆずり、家財道具を売りはらって待っている。よき土地あり――と報告せずにはいられない気持である。

頑として応じない官であるならば、こちらもまた、坐りこんで気永く要求しなければならない。すった揉んだのあげくに見つけた妥協案が、このシップ――と彼は荒莫としたこの沿岸地を見まわすのだ。「元来土質良好ならざれども」――ただ次の点にのぞみをかけ、かけずにはおれない財政状態に追いこまれて、やって来た。「イシカリ河口を距る半里、すこぶる運輸の便あり」と。その彼の努力が、この通りまんまと失敗していた。

こちらの苦衷を当然の酬いと白眼視する官に突き放され、もとの藩主は茫然たる思いであった。