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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
二
無我夢中で引き移って来たのである。それにしても土地の悪いことと云えば、これはまた格別であった。何ものも実らない事実――それに加うるに、その節、海上の運送に委ねた糧食は、年を越え、そろそろ夏になったが未だに到着していなかった。調査に出かけた家中の高倉利吉らの消息も久しく絶えていた。日とともに、一団の人員はぽつりぽつりと欠けて行くような気がした。凶いことは単独には来ない――邦夷の心に湧いた微かな宿命観は、今回の換え地出願も泡のように消えそうな気がした。哀しみが彼の静かな表情を歪めてしまった。近づいてみると、瞼も腫れあがっている。熟睡出来ない思いに追っかけまわされていたのであろう。
それが、小さいながらも、一城の主であったその人の姿である。彼は、小屋の窓の前に来て、切り株に腰をおろした。
たった一人の従僕がつきそっていた。
二
ほのぼのとした黎明が東の空から湧いていた。水のような明るみを背後に受けて、阿賀妻はさされた盃をおし頂いた。従僕が徳利の口をおさえて酒を注いだ。なみなみと満して、たゆたっている。暁の白さが、そのささやかな波に反射した。両手にささげてぐっとそれをあおった阿賀妻は、右手に滴をきりすて、西に連る海を見た。