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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
墨痕あざやかにのびのびと書かれた文字であった。右手には馬繋ぎ場も出来ている。飼料を入れる秣の櫃には松やにがこびりついて瑪瑙色に光っていた。
あたりには休憩すべき民家もなかった。その上多少は気がせいていた。いよいよ乗り込んで来たのであった。すると、ひそかに想像していたよりも格段の落ちつきを持った一箇の権力が、彼の目の前に肩肘を張っているのだ。
馬繋ぎ場のわきで立ちどまった彼は、振り分け荷を土塀の下の草の上において、袴の股立ちをおろした。手拭きを出して、裾を、特に脚絆の黄色い埃をはらいおとすのであった。緒を解いた笠を仰向けに置き、はずした手甲をその中に投げ入れた。折りかえした手拭きで顔の汗や脂をふき取った。
身支度をととのえることは、心の配備を点検することであった。荷の一つから取り出した羽織を、ぱたっと皺をたたいてひっかけた。流し目をくれながらその紐を結んだ。必要な書類をふところに収め、襟の合い目に気をくばった。きりッと出来あがった身ごしらえは、爽やかな感じとなっておのれの気持に反映して来る。それは鏡を見るよりもはるかに正確なものであった。
門を出入りする官員らの大部分は、髷を残して白足袋を穿いていた士族であった。