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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

……三十秒でも、よか」

金五郎も、ただごとでないと悟って、ごたごたと品のならんでいる諸式商の軒先に入った。

「なんでも屋」は、奥の方で、赤ん坊を寝かせつけている女房に、気がねするように、おどおどした小声で、昼休み、桟橋横で起った事件を、かいつまんで話した。

マンの遭遇した危難の物語は、金五郎の怒りを、倍にした。

「よし、わかった」

と、ほとんど、血相を変えて、表に出た。

焼杉板の黒塀に沿って、山下邸の門をくぐった。昨夜のように、裏口からではなく、表玄関に回った。

「おごめん」

三度ほど、案内を乞うと、玄関番のにやけた「先生」が出て来た。厚司着で、突っ立ったまま、

「誰かと思や、金さんか。用があったら、勝手口に廻れや」

「願います。吉田親分さんに、コレラの玉井金五郎が、ちょっと、お目にかかりたい、というて、来て居ります、と、取り次いで下さい」

「吉田親分に、なんの用かや?」

「それは、お目にかかって、じかに、申しあげます」

「先生」は、うろんな眼つきで、金五郎を見たが、不承々々に、引っこんだ。

まもなく、出て来た。

「大将が、逢うてやる、といいなさっとる。わたしに、ついて来なさい」