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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

「村長さん、わたしも、あんたに負けんほど、うれしゅうがんす」

そういうのは、高門の武十旦那である。

煙草工場といっても、単に、大地主である武十の家の倉庫を、改造したものにすぎない。煙草葉をきざむ初期の工程だけをやるのだし、女工も十六人しかいないのだから、結構、それで間にあうのである。

「村長さん、武十旦那さん、わしも、今度のことで、命が三年ほど延びやした。おおきに、ありがとうございやした」

谷口善助のその言葉も、お世辞ではなかった。娘のマンが採用されたばかりか、女工頭に任命されたのである。

開所式の当日、広島からやって来た専売局の若い出張員も、にこにこと、挨拶した。

「ここまで漕ぎつけることのできましたことは、村長さんはじめ、近郊各部落の方々の熱意の賜でありまして、本官は、今回、選抜された優秀なる女工さんがたによって、かならずや、期待される以上の成果が、生みだされるにちがいないことを確信いたします。特に、女工頭の責任ある地位に就かれた、谷口マンさんの活躍に嘱望するところ、はなはだ大であります。……本日は、当地方の駐在員である松富五八郎君が、列席できないことは、まことに残念のいたりでありますが、同君は、一週間ほど前、七瀬の水車小屋に隠匿されてあった不法煙草葉を調査、摘発中、ふいに持病の胃ケイレンをおこして以来