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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
と、思わずには居られなかった。失意と嫉妬の思いが、染奴の眼に青い燐光を燃やす。
「……今ごろは、半七ッあん、どこに、どうして、ござろうぞ……」
金五郎のもっとも得意とする件である。酔ったように、陶然と、語る。
幕のあいたときから、友田喜造は、鳶のような細く鋭い眼を、異様にぎらつかせていたが、いかにも苦そうに舐めていた盃を、下に置いた。
「おうい、もう、わかった。そんな下手糞浄瑠璃、止めれ」
と、怒鳴った。
夢中で語っている金五郎には、その言葉はよく聞えなかったので、なおも、首をふりふり、
「今さらかえらぬことながら、わしという者ないならば……」
と、語りつづけた。
「止めちゅうたら、止めんか。味噌も、糞も、いっしょに腐るわい」
友田喜造が、また、そう叫ぶと、
「やれやれ、なかなか、うまいぞ」
と、列中から、声援する者があった。
松川源十と大川時次郎とは、友田が自分たちのオヤジを罵倒するのを、歯を食いしばる思いで聞いていたので、応援者が出て来ると、その声の方を見た。しかし、それは、聯合組の味方側からではなく、敵側と思っていた花田準造であった。花田が吉田磯吉の懐刀と噂されていることは、日ごろから聞いている。