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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

テーブルの椅子に腰をおろすと、副島はチョビ髭をひねりながら、

「やあ、お歴々が来とるなあ」

と、部屋中を見まわした。

畳敷にすれば、六十枚以上も敷けそうな板の間に、幾組もテーブルが置いてある。一番奥では、三十人ばかりの宴会がひらかれている。仕切りとは名ばかりの低い衝立が立ててあるきりなので、客は丸見えだ。賑やかに談笑している。

金五郎は、仕事関係以外、まだ、よく、この街の人を知らなかったので、訊いてみた。

「副島さん、お歴々というのはどなたですか?」

「なにが、今夜、あっとるのかな? 町会議員の顔が、仰山、見えるが。……蒲瀬町長も来とる。小田助役、石井収入役も居るな。……玉井君、あれが、佐藤慶太郎氏だよ。炭鉱をいくつも持っとる大金持だ。……その右手のが、安川敬一郎氏、安川財閥の御大。……それから、右に、順々に、帆足市右衛門氏、瓜生徳平氏、大貝潜太郎氏、石崎敏行氏、……」若松生えぬきの副島は、よく土地の名士を知っていて、一人のこらず、金五郎に教え、「築港会社の田中さんも居るし、……役場で、昼間、市制施行についての懇談会でも、やったのかも知れん」

運ばれて来たビフテキ、トンカツ、エビフライなどを、馴れぬナイフとフォークで切りながら、ビールを飲んだ。