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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「名乗れ」
桟橋の突端に退いて、そう叫んだとき、金五郎は、背中と後頭部とに、はげしく殴られたような衝撃を受けた。よろめきながら、一人の暴漢を、右腕で小脇にかかえこみ、その匕首を奪いとった。そのとき、指の怪我をした。
「角助かあ?」
「そんな者じゃねえや」
嗄れ声で、誰かが答えた。
「江崎満吉か?」
「馬鹿ぬかせ」
「友田組じゃな?」
「文句いわんと、斬られてしまえ」
身体が敏捷なのと、多少柔道の心得があるのと、持ちまえの糞度胸とで、これまでの喧嘩のときは、どうにか切り抜けて来たのだが、暗夜、足場の狭いところで、兇器を抜きつれた大勢の敵を相手にすることは、いままでのようには行かなかった。悪い条件が揃っていた。
「くたばりやがれ」
喚いて、無茶苦茶に、刀をふりまわし、突いて来る敵のために、金五郎は数ヶ所を斬られた。左の太股に、刀の切っ先を突き立てられて、桟橋の上に片膝と左手とを突いた。そのとき、前額部に、どっと、巨大な石でも落ちかかったような、するどい衝撃を感じた。自然に、頭が後へひかれると同時、顔中に、だらだらと生ぬくいものが流れ落ちた。それは眼に入り、口に入った。