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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

「へえい」

豆八は、首をすぼめたおどけた恰好で、わざと跛を大きく引きながら、逃げて行った。

入れちがいに、光丸が入って来た。青い顔をしている。

誰かを探すらしく、落ちつかぬ眸で、ひろい稽古場に、群がっている芸者たちの中を物色した。光三を見つけると、

「ちょっと、姉さん」

眼で、呼んだ。

二人が、団十郎縞ののれんを排して、廊下に出ようとしたとき、

「光丸さん、もう、あんたの順番ですよ」

背後から、師匠藤間いせのきびしい声が追っかけて来た。

「はい、……すぐ、……」

おどおどしながら、切迫した面持で、姉を廊下の隅にみちびいた。

「良ッちゃん、どうしたの?」

「姉さん、今朝、こんな手紙が来たのよ。……読んでみて」

光丸が、帯の間から取りだした一通の封書を、光三は目読した。

「前略。君を信用していたのに、君がたいへん不誠実であることがわかった。最後の話しあいをしたいと思う。五月三日、六時、「丸金」で待っている。勝則」

巻紙に、そんな簡単な文面が、走り書きしてある。

「あたし、どうしようか知らん……?」

「どうするたって、行くほかないじゃないの?」

「怖いわ。最後の話しあい、なんて……」