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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
或る日、桜見に行った帰り、春の空気をふるわせて、一発の銃声がひびきわたった。弾丸が、金五郎の右耳をはじいて、飛び去った。果物をつつきに群れる鳥を追うため、空鉄砲を放つことは、許されているのである。
金五郎は、耳からふき出る血をおさえ、唇をかんで、さびしそうな顔をした。
或る日の黄昏どき、金五郎は、清七鍛冶屋の店先にあらわれた。
「清ちゃん、いつか頼んだ合鍵な、やっぱり、要ることになったけに、頼むよ」
「よし来た」
蹄鉄を打っていた清七は、金五郎のところに寄って来ると、耳に口を寄せた。
「金坊、お前を鉄砲で撃った奴、おれ、ちゃあんと、知っとるぞな」
「もう、ええ、ええ、放っといてくれ」
「黒石じゃな、お前に、犬神をとりつかせるというとるげなぞ」
「執念ぶかい奴じゃ」
「もう、四日も前から、あの痩犬のクロを、蔵の中に埋けてな、絶食させとる。あたりまえなら、一週間くらいで、犬神を追いだすのじゃが、今度は十日にして、はげしゅう、お前をいびるらしい」
「勝手にさせとけ」
土中に全身を埋めた犬に、永い間、餌をあたえずに置く。飢餓に瀕するのを見て、眼前に、御馳走を見せる。犬はそれが食べたくてたまらない。