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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「こっちに変ったのか」
「上がれ、上がれ」
どよめきと、喚き声とともに、大勢の暴力団が、土足のまま、二階に押しあがって来た。
八畳一間しかないので、逃げることが出来ない。二三人、屋根から、飛び降りた。
「来やがれ」
「畜生」
「吉田大親分を犬ちゅうたのは、どいつか」
口々に、勝手なことをいいながら、暴漢たちは、さんざんに、あばれた。組合と、劇団側とが無抵抗なので、あばれ放題である。一人が謄写版を投げた。電燈の笠にあたって割れた。電気が消えた。別の一人が、蓄音機をかかえあげた。両手でさしあげて、振りかぶった。それまで、レコードは廻っていたので、高い暴漢の手のうえで、「メーデーの歌」が鳴りつづけた。
「くたばりやがれ」
巨漢は、ポータブルを投げ落した。誰にも当らなかった。それは、わざと人のいない場所を目がけて投げたことが、明瞭だった。彼等が真剣になぐりこみをかけて来たのなら、全滅したかも知れない。しかし、奇妙なことに、大仰のわりに、被害は少かった。攻撃が緩慢であったからだ。兇器をふりまわす者もなかった。山本安英、その他の人々が、すこしずつ、怪我をした。
暴漢の間をすり抜けた勝則は、玉田の裏にある長尾医院の電話を借りに行った。