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さこく
鎖国
和辻 哲郎
日本の悲劇
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 443,306 字 · 875 页
それは毎年二万に上ったとさえ云われる。犠牲者の頭蓋骨はピラミッドのように積み上げてあるが、コルテスの従者の一人はただ一つの箇所で十三万六千の頭蓋骨を数えたそうである。被征服諸部族がこの恐怖政治からの解放を熱望していたのも当然のことと云わなくてはならぬ。
この解放の熱望を反映していたのが、武力政治以前のトルテーク族を記念するケツァルコアトゥルの神の崇拝である。元来メキシコには二千に上る地方神が祀られているが、アステーク族の民族神として最も多く人身犠牲を要求しているのは、ウィツィロポチトリの神であった。これはアステーク族をアナワク高原へ導いて来た祖先が神化されたものだと云われている。然るにケツァルコアトゥルは、もとトルテーク族の祭司でありまた宗教改革家であったと云われる。彼は人身犠牲を廃止しようとしたために、この国土から追われ、東の海岸から姿を隠したと信ぜられているのである。後に彼は空の神として、この民族に農耕及び金細工の技術を教えた恵みの神として崇敬された。この神は丈高く、色白く、波うつ髯のある姿に於て表象されている。東の海岸から姿を隠す時には、蛇の皮で作った魔法の舟に乗り、やがて何時かは帰って来てこの国を取り返すであろうと声明した。