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さこく
鎖国
和辻 哲郎
日本の悲劇
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 443,306 字 · 875 页
将軍を味方としたビレラは、十字架を取って街頭に立ち、説教をはじめた。来集者は驚くべく多数であった。噂は忽ち市内にひろがり、このことを話し合わない家はないほどになった。ビレラの借家へ教を聞き或は議論をしようとして押しかけてくるものも多数であった。しかし教に従おうとするものは殆んどなかった。
ビレラの報告によると、当時仏僧たちは狂人の如く市街を奔走して、キリスト教を罵り人民を煽動したという。それがどの程度に真実であるかは解らぬが、とにかく京都の町の民衆が、この異様な新来者の教を容易に受けつけなかったことは事実であろう。ビレラの住んでいた町の住民は、煽動されたか否かはとにかくとして、ビレラがそこに住むことを好まなかった。人々は家主に対してビレラを追い出すように迫り、家主もビレラに即刻立ち退きを乞うた。しかしビレラたちは行く先がなく、ぐずぐずしていた。すると家主は抜身の剣を携えて迫って来た。人を殺せばおのれも死ななくてはならないという日本の習慣の下においては、この家主はおのれの死の危険を冒してまでもビレラの立退きを欲したのである。ビレラは白刃の下において少しく恐怖を感じた、と言っている。