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あるはいまつのどくはく

ある偃松の独白

中村 清太郎

春雪写山行「旅」1940(昭和15)年4月<br>黒部川峡谷の話「山岳 第十二年第一号」1918(大正7)年2月<br>枯木の美と怪「国立公園」1952(昭和27)年3月<br>雪山と廃道「山 二巻二号」1935(昭和10)年2月<br>七面山冬ごもりの記「山小屋」1947(昭和22)年<br>黒部川初遡行の追憶「山と渓谷」1939(昭和14)年7月<br>大雪山あれこれ「国立公園」1955(昭和30)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 页

青空文庫

目細君は昨日、うわさ話の末に、

「……して見ると、あれはきっと、珍らしくいい人間にちがいなさそうだネ。ただわたしがちょっと心がかりなのは、ひょっとしたら……気の毒なことに、あの人、少し気が変なのではないかしら……」

なんて、首をかしげていたけれど、――何の、俺はそうは思わぬ。あれが本当だと思う。とは言っても、白状すればこの俺とて、最初はあまり勝手がちがうので、――これは……すこしおかしいかナ?……などと、思わぬでもなかったくらいだ。ましてや、なまじ人間界を、いくらかでも覗いている目細君としたら、余計そう気を廻すのも、無理はない。けれどもよく考えて見ると、どうしてどうして、そんなものではあるまいと思う……。

ただしかし、せっかく宝の山に入りながら、乱暴を働くなどは論外としても、周囲の意味深い事物にまるで無関心だったり、無関心でないにしてからが、そこに深く心を潜めようとはしないのが一般とすれば、あの男などは、「気が変」だと評されても、まんざら見当ちがいとばかりは言えないかも知れぬ。――それならそれでいいのだ。「変」でいっこうさしつかえない、どころか、いっそ名誉ではないか。