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やまのじんせい
山の人生
柳田 国男
山の人生「アサヒグラフ 第四巻第二号~第五巻第七号」朝日新聞社、1925(大正14)年1月7日~8月12日<br>山人考「大正六年日本歴史地理学会大会講演手稿」1917(大正6)年11月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,022 字 · 226 页
文字に現わせない寂寞の威圧が、久しうして人の心理を変化せしめることは想像することができる。
そうしてこんな人にわずかな思索力、ないしはわずかな信心があれば、すなわち行者であり、或いは仙人であり得るかと思われる。また天狗と称する山の霊が眼の色怖ろしくやや気むつかしくかつ意地悪いものと考えられているのも、一部分はこの種山中の人に逢った経験が、根をなしているのかも知れぬ。
近世の武人などは、主君長上に対して不満のある場合に、無謀に生命を軽んじ死を急ぎ、さらば討死をして殿様に御損を掛け申すべしと、いったような話が多かった。戦乱の打ち続いた時世としては、それも自然なる決意でありえたが、人間の死ぬ機会はそう常にあったわけでもない。死なずに世の中に背くという方法は必ずしも時節を待つという趣意でなくとも、やはり山寺にでも入って法師とともに生活するのほかはなかった。のちにはそれを出離の因縁とし、菩提の種と名づけて悦喜した者もあるが、古来の遁世者の全部をもって、仏道勝利の跡と見るのは当をえないと思う。
その上に山に入り旅に出れば、必ずそこに頃合の御寺があるというわけでもなかった。