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やまのじんせい
山の人生
柳田 国男
山の人生「アサヒグラフ 第四巻第二号~第五巻第七号」朝日新聞社、1925(大正14)年1月7日~8月12日<br>山人考「大正六年日本歴史地理学会大会講演手稿」1917(大正6)年11月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,022 字 · 226 页
旅僧の生活をしようと思えば、少しは学問なり智慧なりがなければならなかった。なんの頼むところもない弱い人間の、ただいかにしても以前の群とともにおられぬ者には、死ぬか今一つは山に入るという方法しかなかった。従って生活の全く単調であった前代の田舎には、存外に跡の少しも残らぬ遁世が多かったはずで、後世の我々にこそこれは珍しいが、じつは昔は普通の生存の一様式であったと思う。
それだけならよいが、人にはなおこれという理由がなくてふらふらと山に入って行く癖のようなものがあった。少なくとも今日の学問と推理だけでは説明することのできぬ人間の消滅、ことにはこの世の執着の多そうな若い人たちが、突如として山野に紛れこんでしまって、何をしているかも知れなくなることがあった。自分がこの小さな書物で説いて見たいと思うのは主としてこうした方面の出来事である。これが遠い近いいろいろの民族の中にもおりおりは経験せられる現象であるのか。はたまた日本人にばかり特に、かつ頻繁に繰り返されねばならぬ事情があったのか。それすらも現在はなお明瞭でないのである。しかも我々の間には言わず語らず、時代時代に行われていた解釈があった。