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やまのじんせい

山の人生

柳田 国男

山の人生「アサヒグラフ 第四巻第二号~第五巻第七号」朝日新聞社、1925(大正14)年1月7日~8月12日<br>山人考「大正六年日本歴史地理学会大会講演手稿」1917(大正6)年11月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,022 字 · 226 页

青空文庫

中仙道は美濃の鵜沼駅から北へ三里、武儀郡志津野という町で、村続きの林を伐ったときに、これは山というほどのところでもなく、ことに老木などの覆い繁ったものもない小松林の平山だから狗賓餅にも及ぶまいと思って、何の祭もせずに寄合って伐り始めると、誰も彼もの斧の頭がいつのまにかなくなり、道具もことごとく紛失していた。これはいけないとその日は仕事を中止し、改めて狗賓餅をして山の神に御詫びをしたら失せた道具がぼつぼつと出てきた。また同じ国苗木領の二つ森山では、文政七八年のころ木を伐出す必要があって、十月七日に山入して御幣餅を拵えたのはよいが、山の神に上げるのを忘れて、自分たちでみな食ってしまった。そうすると早速山が荒れ出して、その夜は例の天狗倒しといって、大木を伐倒す音が盛んにした。この時も心づいて再び餅を拵えて詫びたので、ようやく無事に済んだといっている。この地方では狗賓餅をするには、定まった慣習があった。まず村中に沙汰をして老若男女山中に集まり、飯を普通よりはこわく炊ぎ、それを握って串に刺し、よく焼いてから味噌をつける。その初穂を五六本、木の葉に載せて清い処に供えて置き、それから一同が心のままに食うのである。