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やまのじんせい

山の人生

柳田 国男

山の人生「アサヒグラフ 第四巻第二号~第五巻第七号」朝日新聞社、1925(大正14)年1月7日~8月12日<br>山人考「大正六年日本歴史地理学会大会講演手稿」1917(大正6)年11月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,022 字 · 226 页

青空文庫

甚だうまい物だがこの餅をこしらえると、天狗が集まってくると称して村内の家では一切焼かぬようにしていた。故に一名を山小屋餅、江戸近くの山方では、古風のままに粢餅と呼んでいた。今日我々が宗教行為というものの中には、まだ動機の分明せぬ例が多い。ことに山奥で天狗の悪戯などと怖れた災厄には、こういう人間味の豊かな解除手段もあったことを考えると、存外単純な理由がかえって忘却せられ、実験のようやく稀になるにつれて、無用の雑説が解説を重苦しくした場合を、推測せざるをえないのである。

少なくとも焼飯の香気には、引寄せられる者が山にはいた。食物を供えて悦ぶ者のあることを、里人の方でもよく知っていた。そうして双方が正直で信を守ることは、昔は別段の努力でもなんでもなかった。従ってまず与えると働かずに遁げてしまうというのを、あたかも当世の喰遁げ同様に非難しようとしたならば誤っている。以前は山人はなんの邪魔もしなければ御幣餅をもらうことができ、またそれをくれぬ時にはあばれてもよかった。特に出てなんらかの援助を試みたのは、いわば好意でありまた米の味に心酔した者の、やや積極的な行動でもあった。