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やまのじんせい

山の人生

柳田 国男

山の人生「アサヒグラフ 第四巻第二号~第五巻第七号」朝日新聞社、1925(大正14)年1月7日~8月12日<br>山人考「大正六年日本歴史地理学会大会講演手稿」1917(大正6)年11月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,022 字 · 226 页

青空文庫

大都のまん中では、もとより小児の親にはぐれる場合も多かったろうけれども、幼小な子供が何ぴとにも怪まれずに、こんなに遠くまできていたというは珍しい。故に昔の人もこれらの実例の中で、特に前後の事情の不可思議なるものを迷子と名づけ、冒涜を忌まざる者は、これを神隠しとも呼んでいたのである。

村々の隣に遠く野山の多い地方では、取分けてこの類の神隠しが頻繁で、哀れなることには隠された者の半数は、永遠に還って来なかった。私は以前盛んに旅行をしていたころ、力めて近代の地方の迷子の実例を、聞いて置こうとしたことがあった。伊豆の松崎で十何年前にあったのは、三日ほどしてから東の山の中腹に、一人で立っているのを見つけだした。そこはもう何度となく、捜す者が通行したはずだのにと、のちのちまで土地の人が不思議にした。なおそれよりも前に、上総の東金附近の村では、これも二三日してから山の中の薄の叢の中に、しゃがんでいたのをさがしだしたが、それから久しい間、抜け殻のような少年であったという。

珍しい例ほど永く記憶せられるのか、古い話には奇抜なるものが一層多い。親族が一心に祈祷をしていると、夜分雨戸にどんと当る物がある。