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やまのじんせい
山の人生
柳田 国男
山の人生「アサヒグラフ 第四巻第二号~第五巻第七号」朝日新聞社、1925(大正14)年1月7日~8月12日<br>山人考「大正六年日本歴史地理学会大会講演手稿」1917(大正6)年11月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,022 字 · 226 页
明けて見るとその児が軒下にきて立っていた。或いはまた板葺き屋根の上に、どしんと物の落ちた響がして、驚いて出てみたら、気を失ってその児が横たわっていた、という話もある。もっとえらいのになると、二十年もしてから阿呆になってひょっこりと出てきた。元の四つ身の着物を着たままで、縫目が弾けて綻びていたなどと言い伝えた。もちろん精確なる記録は少なく、概して誇張した噂のみのようであった。学問としての研究のためには、更に今後の観察を要するはもちろんである。
愛知県北設楽郡段嶺村大字豊邦字笠井島の某という十歳ばかりの少年が、明治四十年ごろの旧九月三十日、すなわち神送りの日の夕方に、家の者が白餅を造るのに忙しい最中、今まで土間にいたと思ったのが、わずかの間に見えなくなった。最初は気にもしなかったが、神祭を済ましてもまだ姿が見えず、あちこちと見てあるいたが行方が知れぬので、とうとう近所隣までの大騒ぎとなった。方々捜しあぐんで一旦家の者も内に入っていると、不意におも屋の天井の上に、どしんと何ものか落ちたような音がした。驚いて梯子を掛けて昇ってみると、少年はそこに倒れている。