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やまのじんせい

山の人生

柳田 国男

山の人生「アサヒグラフ 第四巻第二号~第五巻第七号」朝日新聞社、1925(大正14)年1月7日~8月12日<br>山人考「大正六年日本歴史地理学会大会講演手稿」1917(大正6)年11月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,022 字 · 226 页

青空文庫

神隠しという語を用いぬ地方もすでにあるが、狐に騙されて連れて行かれるといいまたは天狗にさらわれるといっても、これを捜索する方法はほぼ同じであった。単に迷子と名づけた場合でも、やはり鉦太鼓の叩き方は、コンコンチキチコンチキチの囃子で、芝居で「釣狐」などというものの外には出でなかった。しかもそれ以外になお叩く物があって、各府県の風習は互いによく似ていたのである。例をもって説明するならば、北大和の低地部では狐にだまされて姿を隠した者を捜索するには、多人数で鉦と太鼓を叩きながら、太郎かやせ子かやせ、または次郎太郎かやせと合唱した。この太郎次郎は子供の実名とは関係なく、いつもこういって喚んだものらしい。そうして一行中の最近親の者、例えば父とか兄とかは、一番後に下ってついて行き、一升桝を手に持って、その底を叩きながらあるくことに定まっており、そうすると子供は必ずまずその者の目につくといっていた(『なら』一八号)。紀州田辺地方でも、鉦太鼓を叩くとともに、櫛の歯をもって桝の尻を掻いて、変な音を立てる風があった(雑賀君報)。播磨の印南郡では迷子を捜すのに、村中松明をともし金盥などを叩き、オラバオオラバオと呼ばわってあるくが、別に一人だけわざと一町ばかり引き下って桝を持って木片などで叩いて行く。