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やまのじんせい

山の人生

柳田 国男

山の人生「アサヒグラフ 第四巻第二号~第五巻第七号」朝日新聞社、1925(大正14)年1月7日~8月12日<br>山人考「大正六年日本歴史地理学会大会講演手稿」1917(大正6)年11月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,022 字 · 226 页

青空文庫

『西播怪談実記』という本に、揖保郡新宮村の民七兵衛、山に薪採りに行きて還らず、親兄弟歎き悲みしが、二年を経たる或る夜、村のうしろの山にきて七兵衛が戻ったぞと大声に呼ばわる。人々悦び近所一同山へ走り行くに、麓に行きつくころまではその声がしたが、登ってみると早何処にもいなかった。天狗の下男にでもなったものかと、村の内では話し合っていたが、その後この村から出て久しく江戸にいた者が東海道を帰ってくる途で、興津の宿とかで七兵衛に出逢った。これも互いに言葉を掛けて別れたが家に帰って聞くとこの話であった。それからはついに風のたよりもなかったということである。すなわちたった一度でも村の山へきて呼ばわらぬと、人はやはり駆落ちと解する習いであった故に、自然にこのような特徴が出てきたのである。

『九桂草堂随筆』巻八には、また次のような話がある。広瀬旭荘先生の実験である。「我郷(豊後日田郡)に伏木という山村あり。民家の子五六歳にて、夜啼きて止まず。戸外に追出す。其傍に山あり。声稍遠く山に登るやうに聞えければ驚きて尋ねしに終に行方知れず。後十余年にして、我同郷の人小一と云ふ者、日向の梓越と云ふ峯を過ぐるに、麓より怪しき長七八尺ばかり、満身に毛生じたる物上り来る。