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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

『何か、院では、おはなしのできぬ相談事でもあるとみえて』

『そいつは、思わざる伏兵だ』清盛はあっさり、固執をすてて、頭をかいた――『そう、知れていては、仕方がない。白状するよ、経盛。おまえの手紙は、母上に渡してやろう。……だが、父上も、おれにいってくだすったことがあるんだ。母に会いたくば、いつでも、会いにゆくがいいと』

『じゃあ、兄上。いっそ経盛も、御一しょに参りましょうか』

『ばかをいえ』清盛は、うろたえて、『父上のお気もちにもなって見い!』と脅しつけた。

『――そこは、男親のつらいお慈悲だ。甘えてはならぬ。また、おれの夜歩きを、わざわざお耳に入れる必要もないぞ。いいか。木工助にも、黙っておれよ』

清盛は、築土をとび越えて、外へ降りた。――なお、百歩ほどは、経盛の泣き顔が、目先にあったが、すぐ忘れて、銀河の夜風に、二十歳の体温を吹かせて歩いた。

放たれた魚の肺にも似て、かれは、秋の夜を呼吸した。だが、行くあては何もない。何が欲しくて、あるいは不平で、宵から自ぶくれていたのやら、自分でも、気がしれないのだ。

しかし、外ではなく、かれ自体、持てあましているものが内にある。