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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

『でも、兄者人は、母上の許へ、そっと、会いにおいでになるんでしょう。……経盛も、会いとうございます。父とは、わかれたお方でも、子には、切れない母上。……お顔を、見たい。……経盛も、お会いしたくて、たまりません。……けれど、時のくるまで、こらえておりますと、兄者人からも、仰っしゃってください。手紙には、書きましたが』

俯向いていう弟の鼻の先から、一粒一粒、月を宿した涙が、ぽとぽと落ちる。これは、滑稽千万だ。弟は、勘ちがいしているらしい。だれが、あんな母を慕ってなどいるものか。――清盛はいいかけた。しかし、弟の泣きじゃくりにも、つり込まれそうになった。

『ちがうよ、経盛。おれは、渡との、約束で』

『いえ。おかくしなさいますな。兄者人の影を、中御門家の近くで見たお人もあるのですから。……その客人が、父上にも、話しておりました』

『えっ、父上に。……だれだ。そんな出たらめを、いったやつは』

『時信様です。――軽薄な堂上方のうちでも、あのひとだけはと、父上も、かくべつ、お親しくしている藤原時信様ですから、私も、疑いません』

『ふウ……む。あの爺様。このごろまた、やって来るのか』