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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
――で、人は、「どこの小殿であろ」「何をする武者やら、小冠者やら?」と、怪しむのであった。また悪い癖で、清盛はよく、ふところ手で歩く。良家の子弟にはない風儀だ。父の前では絶対にやらないが、戸外へ出ると、癖が出る。――これはまちがいなく、塩小路に集まる人種の影響であった。
『きょうは、立ち寄るまい。銭を持っている……。口惜しくも、借りた銭を』
かれは自分をおそれた。そこの魅力が、すでにむらむら意欲に響いていたからであろう。生まれつき、意志が弱く、煩悩には克てない自分を、よく、わきまえてはいたのである。
しかし、そこのつじまで来ると、もうだめだった。狭い小路の口から、官能の好む生ぬるい風が、迷いを嘲って流れてくる。
『やってるな。いつものが……』
雉子の股や、小鳥のくし焼を売っている老婆のそばで、べつな男は、大きな酒瓶を、道ばたにすえ、自分も飲んで、酔って、歌いながら、実は目的の、酒売りをやっている。
――また、ひとかごの橘の実をひざにかかえ、しょんぼりと、市場の日陰にひさいでいる小娘もある。下駄売り、沓直しの父子も見える。干魚や、古着などの、ささやかな物をならべて、露命をつなぐ棚の軒も、この一画だけで、百戸以上もあるという。