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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
どれもみな、世の下積みにひしがれた、あわれな雑草の生活の姿でないものはない。けれど、ここのぬかるみに根をおろして、生きぬき、生き合おうとする生命の群れとして観ると、おそろしい生存の闘いが、人の思慮分別をくらまし合っているような雰囲気でもあった。どこかで、煮焼きする食べ物の煙りは、黒い人混みの秘密をつつみ隠しているようだし、辻博奕だの、淫らな女たちの嬌笑だの、あかん坊の泣き声だの、放下師の鼓だの、そのほか識別しがたい臭気と物音が、耳の穴へ混み入ってくる。いってみれば、百敷の大宮人たちの貴族文化に張り合って、ここの人びとが身相応に誇って持つ唯一の楽園なのである。凡下や地下人だけの花の都なのだ。――だからこそ、清盛の父も、いうのである。あんな場所へ、ゆめ、近づいてはならんぞと。
ところが、清盛は、ここが好きだ。ここの人間たちにも親しめる。市場の西の大榎の下では、“醜草市”とも、ただ“クサ市”ともよぶ泥棒市がときどき立つが、それさえ、かれには、愉快に見えた。
『なあんだ。やれ強盗だの、山賊だのというが、こうして、食えていれば、仲よく暮しているではないか。