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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

それは、執拗をきわめていたろう。一徹、わき見を知らない男の横恋慕である。

おそらく“いのち懸け”を示したろう。――が、かの女も、男の脅迫のことばに暗示を得て、同時に、“女のいのち懸け”を、胸に秘めたにちがいない。

盛遠は、ついに、死ぬか、狂気するかの眼ざしで、さいごの返辞をかの女に求めた。――袈裟は、それに、こういう誓いを与えた。前後を、しずかに、考えあわせて、すでに用意していた答えだった。

(……ぜひもありませぬ。十四日の夜の戌刻、良人の寝屋へ、さきに忍んでください。その宵、良人にふろをすすめ、髪のよごれも洗わせて、酒などあげて寝ませておきます。……どう仰っしゃっても、良人が生きているうちでは、あなたのお心に従えもいたしません。わたくしは、遠い部屋で、あなたが、ことをすませるのを、眼をつぶって待っておりましょう。――良人は、打物取っては、強者ですから、そッと、まくらに近づき、濡れ髪がお手に触れたら、さそくの一太刀で、首打ち落してしまうことです。ゆめ、打ち損じてくださいますな)

(――よしっ)

と、盛遠は、血ばしった眼でうなずき、その宵、そのとおりに、実行したのである。