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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
袈裟ノ前の死は、十四日の宵の戌刻すぎごろ(午後九時)――場所は、菖蒲小路の自邸。良人の渡にとっては、留守のまのできごとだった。
袈裟の母は、衣川の媼といい、親しいほどではないが、盛遠とは、顔見知りであった。
媼のむすめの袈裟が、上西門院の雑仕をやめて、源ノ渡へ、嫁ぐまえか、あるいは、その後かも知れないが――何しても、遠藤盛遠は、いつかふかく、袈裟に恋していたものらしい。
盛遠は、夙に、勧学院でも、みとめられ、将来は、朝廷から学問料もたまわり、大学寮へはいって、文章得業生たり得ようとまで――属望されていたものであったが、近来のかれの素行は、それらの先輩や、同僚にまで、まゆをひそませ、
(――盛遠は、近ごろ、どうかしておる)
と、見放されていた。
かれの性来は、ひたむきだった。徹しなければ止まぬのである。博学も、剛毅も、雄弁も、ひとを群小輩と視るくせも、その自負から生じている。まして、恋には、なおさらである。熱しるに理性をともなわない血液と頑健な肉体と――狂にちかい情涙の持ち主ときている。
袈裟こそは、災難であった。盛遠にいいよられたときの、おののきも、思いやられる。