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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

とまで、みな、誹った。美を惜しむのも極端に、その反動も極端に――である。

しかし、事件への好奇や、ひとへの憎しみ、惜しみも超えて、袈裟の死は、たまたま、この時代の男女が、ぼんやりとしか、もっていなかった“貞操”の観念に、はからずも大きな眼ざめを与えた。

死をもって、貞操を守ったかの女の――“女の道”のかなしさに、人びとは瞼をあつくし、その清冽さに、驚愕したのであった。

だが、なんとなく、批判的にみえたのは、宮廷の男女、公卿たちであった。それに反して、わんわん市場の雑民たちの声にしても、一般は、袈裟の死を、悲しまぬはない。美しい犠牲と、口をきわめて、みないった。――夜々に、肉体を男に売って生きている六条の遊女たちまでが、袈裟のうわさには、ひとごとならず涙ぐみ、白粉垢に、生き疲れたたもとを、濡らしおうて、

『野辺送りの日には、花を持って、鳥辺野まで、行ってあげよう』

とさえいう幾人かがあったのは、たれもが、意外とした現象であった。

一時の感傷かとおもえば、そうでもなく、果して、袈裟御前の葬儀の日には、それらしき女たちが、衣を被き、笠をかぶって、たくさんな会葬者の中に立ち交り、鳥辺野西院の荼毘所に、名知らぬ贈りての花束を、いくつも残して、立ち去ったということである。