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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
おもうに、それは、かの女たちが、個々、みずからの貞操へ、みずから手向けて、せめてもの残香を、身にもってみた慰めであり、秋の一日だったにちがいない。
六条裏に、世を生きても、たれか自分を貞操のない女だとしている女が、ほんとには、あろうか。実は、かの女たちの心のおくにも、追いつめられて奄々たる気息の貞操はまだ生きていた。男に切り売りしているものは貞操ではない。むずかしい説教や書物に訓えられないでも、女体の本質が、知っていた。時により肉体と本心を、二つに持つことを、余儀なくでも、悟っている。
不幸か、幸か、かの女たちにくらべて、この問題を、切実に考え得られなかったのは、後宮女性の一部や、貴族の深苑に囲われている黒髪長き花ばなであった。
この世をば我が世とぞおもう――藤氏の門に咲いた花は、食う、生きるの、生活のたたかいからは、幾世紀も、庇護されてきたが、ひろい地上に根をもたないし、“女の道”を自分の意志でひとり歩きするわけにもゆかなかった。貴族層の繁栄をつづけるために、すぐれた美質は、すぐ政略や猟官の具として、贈り物の切り花につかわれ、女を自覚する年ごろには、もう制度や位階や、多くの侍きの中の身で、女ではなく、たけたる一個の権門の用具として置かれていた。