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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
薙刀を持ちかえて、
『おういっ、木工助。顔を貸せい』
と、遠いうしろの、家貞をさしまねいた。
『おれはな、ちょっと、上西門院まで行ってくるぞ。辻立ちも、今夕までだが、その間、ここを頼むぞ』
『上西門院へ。はて、何しに、あなた様が』
『くさいのだよ。じじ、あの内が』
『お止めなされ……』と木工助家貞は、顔を皺めて横に振った。『――場所が悪うござりまする。内親王さまのお住居を、窺うたなどと聞こえては』
『かまわぬ、何も、その御方を、お疑いしてゆくわけじゃない』
『――が、何事にまれ、院と朝廷とのお間は、ささたることも、間違うと、思いのほかな大事にたちいたりやすいこと。おわきまえで、ございましょうが。構えて、足ぶみせぬが、賢うござりますわい』
『いやいや、おれは行く。聞けば、衛府の輩は、おれたちの迂を嘲い、自分らの手で捕ってみせるといいおるそうな。――意地でもある。盛遠は、この手で、捕えてみせたいところだ。盛遠もまた、どうせ捕まるなら、おれの手にかかりたいと念じているやもしれぬ』
あやぶむ木工助を、眼の外に、かれは持ちまえの幻覚に熱していた。大きな耳たぶが、血ぶくろみたいに、赤くなるときがそれである。