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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

つまらなくなる、浅ましくなる、悲しくなる。清盛は、母を見ると、不幸になる。牛の背なかの秋蠅が、やたらに顔を襲うので、それにも、焦らだち、逃げるように、別れかけた。

すると、泰子は、あわててかれを呼びかえした。そして、平太……と、母のくせに、艶いた眼を、子へ、して見せた。

『――そなたは、何かまだ、わたくしに、問いたいことが、あったはずでしょう?』

清盛は、どきっとした。母の蔭に、もうひとり、潜むがごとく、乗っていた人を見ると、瑠璃子であった。

『平太。……何も、話はありませんの。……ホホホホ。瑠璃子さま、これを平太へ、あげてくださってもよろしいでしょう』

瑠璃子は、うなずいたきり、泰子の肩の蔭へ、顔を埋めた。その下から、泰子は、めずらしい乱菊の剪り花を、一枝とって。――これは、内親王さまからいただいたのではあるが、瑠璃子さまから、そなたへ贈ってくださるという。そなたは、菊の花に寄せて、歌を詠み、その歌をたずさえて、近いうちに、中御門どのの対ノ屋へ遊びにくるがよい。きっと、よい歌をお見せなさい。瑠璃子さまの心に染むような、よい歌を――と。

『……?』

清盛は、のろい牛の歩みが、遠くになるまで、ぼんやり立っていた。