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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

おれは、こよいの御酒を、涙なしには、いただけぬわい』

『またしても、またしても、院の公卿どもが、いい合わせて、上皇と殿との、おん結びを、盛遠追捕の不首尾にことよせ、裂こうと企てておるらしいぞ』

『あな、うつけ。――らしいとはなんぞよ。らしいとは。殿のお肚がわからぬか。殿は、またお引き籠りと、きめておるによ』

『非違もないのに、なぜ、わが殿は、さまでに、お弱気なのやら。……おれは、たまらぬ、業が煮える。まるで、姑、小姑みたいな悪公卿どもの、もやもやを、見ておられる上皇も上皇だ』

『これ、様をつけて申せ。様をつけて』

『なんのざまはない上皇ではあるぞ。殿を、正しい者と、信じて、お愛しになるならば、側近の誹りや隔ても、なぜ、一蹴してはくださらぬか。そのこともなく、殿が、御出仕あれば、寵を示され、公卿輩が、嫉み出すと、見えすいた陰謀も、知らぬお顔というのでは、殿が、生殺しというものだぞやい』

『もう、いうな。天下の政治は遊ばすが、院中の侫官すら、ままならぬものがおありなのだ。……殿は、自分のために、その上皇さまを、お苦しめ申しては相済まないというお考えにちがいない』