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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

という今様を歌い出す者があった。たちまち、大勢がそれに唱和する。鉢をたたき、手拍子をそろえ、清盛も歌う、忠盛も歌う。

舞う――踊る――というような行為を、この時代の人間は、特別な自分を示す意識ではしていなかった。殿上でも、陛下のまえでも、この通りなことはあった。田植え、耕作のあいだにも、百姓たちは、すぐ舞った。飯を食い、水を飲む意欲と、同じにである。田楽舞は、それから起こったものといわれている。

すこし余談になるが――

やはりその辺から由来したものであろうか。当時の道化踊りにあわせてうたう歌謡のうちに「蝦漉舎人之足仕」というのが新猿楽記のうちに見える。

えび漉き舎人はいずくへぞ

この江にえびなし下りられよ

えび交りの雑魚もやあると――

といったような歌詞で、そのことばの内容と、足仕という意味から考えると、近世の宴会芸術によく演じられる“泥鰌すくい”なる諸大家の芸能は、すでにこのころから世に行われていたものとおもわれる。

踊る者があり、歌う者があれば、また、一隅では、怒色をなして、酒に、欝をいわせている者があるのも、人間講とすれば、やむをえない。

『いや、分かっている、殿は、何もいわれぬが、いわぬお心を、おれは酌むのだ。